経営力向上計画のメリットを解説!目玉は即時償却による節税効果
「経営力向上計画を策定するとメリットがある」と耳にしたことがあるけれど、実際に作成や申請をしないままになっている中小企業も多いかもしれません。
経営力向上計画はA4用紙約5枚分のフォーマットに入力する形式で策定でき、認定を受ければ税制、金融、法律の3つの面でさまざまな支援策を受けられるため、ぜひ活用したい制度です。
この記事では、経営力向上計画のメリットや認定を受ける流れ、申請の注意点を詳しく解説します。経営力向上計画に興味はあるけれど、まだ策定していない中小企業の経営者様はぜひご一読ください。
なお、この記事は認定支援機関である経営コンサルタント・中小企業経営支援事務所が解説します。事業再構築補助金やものづくり補助金などの申請を視野に入れている中小企業の経営者様は、お気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
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もくじ
経営力向上計画とは
経営力向上計画とは、人材育成や生産性向上などについて、特定の書式に基づいて策定する事業計画書です。条件に該当する中小企業が策定し、所管の省庁から認定を受けることで、税制の優遇措置や金融支援、法的支援などの特典を受けられます。
経営力向上計画の認定を受けられるのは、中小企業等経営強化法に定められた「特定事業者等」であり、その規模は以下のとおりです。
・会社または個人事業主 ・医業、歯科医業を主たる事業とする法人(医療法人等) ・社会福祉法人 ・特定非営利活動法人 | |
従業員数 | 2,000人以下 |
経営力向上計画の具体的な内容としては、自社の現在の課題や経営力を向上させるための具体的な実施事項、導入する設備などを、A4用紙5枚分の申請書式内で説明します。
経営力向上計画の制度は2016年に始まり、2023年10月31日現在で163,757件の事業者が認定を受けています。日本全体の中小企業数が約357万社であることから、経営力向上計画の認定を受けている中小企業は、約4.5%に留まっているのが現状です。
(参照:中小企業庁「経営力向上計画の認定について」、中小機構「日本を支える中小企業」)
まだ活用している中小企業が少ない経営力向上計画ですが、策定することで多くのメリットがあります。続いて、経営力向上計画のメリットを①税制措置、②金融支援、③法的支援の3つに分けて紹介します。
経営力向上計画のメリット①税制措置
税制面での経営力向上計画のメリットは、以下の3つです。
- 中小企業経営強化税制
- 事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例
- 中小企業事業再編投資損失準備金
これらの税制措置は、経営力向上計画の認定を受けただけでは利用できません。利用するためには、それぞれ個別に手続きする必要があります。手続きの詳細は「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」の最新版をご確認ください。
中小企業経営強化税制
中小企業経営強化税制とは、経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、法人税において、新たに取得した設備を即時償却、または10%(*)の税額控除のどちらかを選択適用できる制度です。
*資本金が3,000万円超1億円以下の法人は7%
中小企業経営強化税制を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 青色申告を行っている中小企業者等であること
- 指定事業のための設備投資であること
- 経営力向上計画の認定を受けること
- 計画に沿って設備を新規導入すること
中小企業経営強化税制で選択できる「即時償却」とは、一定の設備投資を行った際に、費用の全額を一度に経費として計上できる仕組みです。通常は、設備投資を行った場合、法令で定められた耐用年数に応じて、毎年少しずつ経費に計上する「減価償却」が原則です。
一方、即時償却は事業初年度に設備投資の費用全額を経費として計上できるため、以下のメリットがあります。
- 単年度の税負担を抑えられ、手元資金を多く残せる
- キャッシュフローがよくなり、余裕資金を設備投資に回せる
ただし、即時償却でなく税額控除を選んだ場合は、通常の減価償却に加え、初年度に税額控除を受けられ、トータルの納税額は即時償却を選ぶ場合より低く抑えられます。
即時償却と税額控除のどちらを選んだほうがメリットが大きいかはそれぞれの状況で異なります。判断に悩むときは税理士に相談しましょう。また、設備投資について税制措置を受ける場合は、経営力向上計画の申請の際に追加書類が必要であるため、ご注意ください。
事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例
経営力向上計画の認定を受けると、事業承継を行う際、不動産の所有権移転の登記における登録免許税と不動産取得税が軽減されます。具体的には、以下の税率が適用されます。
【登録免許税】
通常税率 | 計画認定時の税率 | |
事業に必要な資産の譲受けによる移転の登記 | 2.0% | 1.6% |
合併による移転の登記 | 0.4% | 0.2% |
分割による移転の登記 | 2.0% | 0.4% |
【不動産取得税】
取得する不動産の種類 | 税額 | 計画認定時の特例 |
土地・住宅 | 不動産の価格×3% | 不動産の価格の1/6相当額を課税標準から控除 |
住宅以外の家屋 | 不動産の価格×4% | 不動産の価格の1/6相当額を課税標準から控除 |
中小企業事業再編投資損失準備金
中小企業事業再編投資損失準備金とは、経営力向上計画の認定を受けた事業者が事業承継に伴い株式等を取得し、一定割合の金額を準備金として積み立てた場合、その金額を損金算入できる制度です。損金算入を行うと、月次の会計処理では経費として認められない費用を決算時に経費として扱うことができます。
この制度を活用するためには、経営力向上計画に「事業承継等事前調査に関する事項」を記載する必要があります。中小企業庁:申請書様式類のページにある「事業承継等事前調査チェックシート」の作成・提出を忘れないようにしましょう。
経営力向上計画のメリット②金融支援
経営力向上計画の認定を受けると、さまざまな金融支援を活用できます。
こちらも経営力向上計画の認定だけで利用できるものではなく、個別の申請が必要であるため、「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」の最新版をご確認ください。
日本政策金融公庫による融資
経営力向上計画の認定を受けた事業者は、日本政策金融公庫から設備投資に必要な資金について融資を受けられます。条件すべてに当てはまる場合は、基準利率より低い特別利率が適用されます。
詳細は、中小企業経営力強化資金|日本政策金融公庫にてご確認ください。
中小企業信用保険法の特例
経営力向上計画の認定を受けた特定事業者は、民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保証とは別枠で追加保証や保証枠の拡大を受けられます。
この特例は、新商品や新サービスなど、自社にとっての新しい取り組み(新事業活動)や、M&A等による事業承継(デューデリジェンスを含む)を行う場合に限られます。
中小企業投資育成株式会社法の特例
中小企業投資育成株式会社法の特例とは、経営力向上計画の認定を受けると、資本金3億円を超える株式会社でも、中小企業投資育成株式会社から融資を受けられる制度です。
中小企業投資育成株式会社の通常の投資対象は、資本金3億円以下の株式会社ですが、特例で投資対象が拡大される形です。
日本政策金融公庫(中小企業事業)によるスタンドバイ・クレジット
経営力向上計画の認定を受けた特定事業者は、海外支店や海外子会社が海外の金融機関から融資を受ける際に、日本政策金融公庫から信用状を発行され支援が受けられます。
日本政策金融公庫(中小企業事業)によるクロスボーダーローン
経営力向上計画の認定を受けた特定事業者の海外子会社は、日本政策金融公庫から直接融資を受けられます。融資を受けられるのは、経営力向上計画等の実施に必要な設備資金および運転資金です。
中小企業基盤整備機構による債務保証
従業員数2,000人以下の特定事業者等(特定事業者を除く)が、経営力向上計画を実施するために必要な資金について、保証額最大25億円の債務の保証を受けられます。保証割合は50%で、最大50億円の借入に対応しています。
特定事業者の定義は、以下のとおりです。
製造業その他 | 卸売業 | 小売業・サービス業 | 政令指定業種 (ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業) | |
従業員数 | 500人以下 | 400人以下 | 300人以下 | 500人以下 |
食品等流通合理化促進機構による債務保証
食品製造業者は、経営力向上計画の実行にあたって民間金融機関から融資を受ける際に、食品等流通合理化促進機構による債務の保証を受けられます。信用保証を使えない場合や、巨額の資金調達が必要となる場合を想定した支援策です。
経営力向上計画のメリット③法的支援
経営力向上計画の認定を受けると、以下のような法的な支援も活用できます。
許認可承継の特例
許認可承継の特例とは、事業承継等の際に経営力向上計画の認定も引き継げるという特例です。経営力向上計画の内容に事業承継等を行うと記載する必要があります。
組合発起人数の特例
経営力向上計画の認定を受けると、組合を組成するとき、通常は4人必要な発起人の人数が3人でも認められます。この特例を受けるためには、経営力向上計画の策定段階で、組合の組成を記載しておきましょう。
事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例
事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例とは、事業譲渡に伴い債務の移転が必要な場合に、債権者へ催告をしてから1か月待っても返事がなければ、債務移転の同意があったとみなすものです。より簡略な手続きにより、債務を移転できます。
経営力向上計画の認定を受ける流れ
経営力向上計画の認定を受けるには、以下のステップを踏んで計画を策定、提出しましょう。
- 日本標準産業分類で、該当する事業分野を確認する
- 対応する事業分野別指針を確認する
- 事業分野別指針(該当しない場合は基本方針)を踏まえて経営力向上計画を策定する
- 事業分野に応じた担当省庁の大臣に提出する
- 認定が下りる
- 認定書が郵送される、またはダウンロードできる
日本標準産業分類は日本標準産業分類(平成25年[2013年]10月改定)、事業分野別指針と基本方針は中小企業庁:事業分野別指針及び基本方針から確認できます。
経営力向上計画の提出先は、農業であれば農政局、製造業であれば経済産業局と分野ごとに分かれています。事業分野ごとの提出先は、中小企業庁:経営サポート「経営強化法による支援」に掲載されているエクセルファイル(事業分野と提出先)でご確認ください。
経営力向上計画の認定を受ける際の注意点
経営力向上計画の認定を受けるときに注意すべきポイントは、主に以下の2点です。
- 認定まで時間がかかる
- 各種支援を受けるために事前準備が必要な場合がある
経営力向上計画の申請から認定までは、通常で30日ほどかかりますが、電子申請の場合は14日ほどに短縮できます(経済産業部局に提出する場合)。
経営力向上計画自体に「いつまでに申請する」という締切はありませんが、税制措置を利用する場合は事業年度末までに認定を受けなければなりません。書類不備などのトラブルが起こる可能性を考えると、1か月よりも時間に余裕を持った提出がおすすめです。
「経営力向上計画申請プラットフォーム」を利用し電子申請すれば、認定までの期間が短くなることに加え、記入項目のエラーチェックや自動計算などのサポート機能が使えます。
また、各種支援を受けるためには、追加の書類が必要になる場合があります。たとえば、中小企業経営強化税制を受ける場合、A類型では「工業会等による証明書」、B~D類型では「投資計画の確認申請書」や「経済産業局の確認書」が必要です。
経営力向上計画にはメリット多数!認定を受け経営に活用しよう
経営力向上計画とは、特定の書式に基づいて事業計画を策定し、担当省庁の認定を受けることで、税制措置や金融支援などを受けられる制度です。A4用紙5枚分のフォーマットに入力する形式で、電子申請も可能なので、比較的手軽に策定できます。
中でも、設備投資の費用を即時償却でき、節税効果の高い「中小企業経営強化税制」は見逃せません。経営力向上計画を策定し、さまざまな支援策を経営に活用しましょう。
当社・中小企業経営支援事務所は中小企業診断士が代表を務める経営コンサルタントです。認定支援機関であり、中小企業に対して専門性の高いサポートを行っています。
経営力向上計画の策定方法について、各種支援策の活用方法などについて、ご不明の点があれば、お気軽にご相談ください。ものづくり補助金や事業再構築補助金の申請サポートも承ります。初回相談は無料です。