業務改善助成金とは?活用事例や申請の流れ、注意点を解説
業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資と従業員の賃金引き上げをあわせて行う中小企業に、設備投資費用の一部を助成する制度です。令和5(2023)年8月31日に制度が拡充され、より利用しやすくなりました。
この記事では、業務改善助成金の概要や活用事例、申請の流れ、利用にあたっての注意点などを解説します。業務改善助成金の利用を検討されている中小企業の経営者様は、ぜひ参考にしてください。
なお、この記事はものづくり補助金をはじめとして、さまざまな補助金の申請サポートを行っている中小企業経営支援事務所がわかりやすく解説します。業務改善助成金の申請についてご不明点がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
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もくじ
業務改善助成金とは
業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資を行い、事業場内最低賃金を一定額引き上げた中小企業や小規模事業者に対し、設備投資にかかった費用の一部を助成するものです。中小企業の生産性向上と、従業員の賃金引き上げを支援するために創設されました。
業務改善助成金における設備投資等とは、以下のようなものを指します。
- 機械設備
- コンサルティングの導入
- 人材育成
- 教育訓練
このような生産性向上のための取り組みと、従業員の賃金引き上げをあわせて行った場合に助成金が支給されます。
なお、業務改善助成金は過去に受給したことがある事業者も助成対象です。
業務改善助成金の対象要件
業務改善助成金の対象要件は、以下の3点です。
- 中小企業事業者であること
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 解雇、賃金引き下げ、労働関係法令違反などの不交付事由がないこと
中小企業とは、以下の条件に当てはまる事業者を指します。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する企業全体の労働者数 |
一般産業(下記以外) | 3億円以下の法人 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下の法人 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下の法人 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下の法人 | 50人以下 |
「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する企業全体の労働者数」は、どちらの要件も満たしている必要はなく、いずれかの要件を満たしていれば十分です。
事業場内最低賃金とは、事業場で最も低い時間給のことで、「最低賃金法」などの規定に基づき計算されます。不明な点があれば、あなたの賃金を比較チェック|最低賃金制度のページで計算方法を確認したり、管轄の労働局雇用環境・均等部室や賃金課室に相談したりしてみましょう。
業務改善助成金の助成上限額・助成率
業務改善助成金は、「設備投資にかかった費用に一定の助成率をかけた金額」と、「助成上限額」を比較して安いほうの金額が助成額になります。
助成率は、以下のように事業場内最低賃金の額で決まります。
事業場内最低賃金 | 900円未満 | 900円以上950円未満 | 950円以上 |
助成率 | 9/10 | 4/5(9/10) | 3/4(4/5) |
生産性要件とは、以下のとおりです。
「生産性」とは、企業の決算書類から算出した、労働者1人当たりの付加価値を指し、「生産性要件を満たした場合」とは、助成金の交付申請時の直近の決算書類に基づく生産性と、その3年度前の決算書類に基づく生産性を比較し、6%以上伸びている場合又は1%以上(6%未満)伸びている場合をいいます。1%以上(6%未満)の場合は、金融機関から一定の事業性評価」を得ている必要があります。
引用:中小企業最低賃金引上げ支援対策費補助金(業務改善助成金)申請マニュアル
助成上限額は、事業場内最低賃金の引き上げ額や引き上げる労働者数、事業場の規模に応じて、以下のように設定されています。
事業場内最低賃金の引き上げ額 | 引き上げる労働者数 | 助成上限額 | |
右記以外の事業者 | 事業場規模30人未満の事業者 | ||
30円以上 | 1人 | 30万円 | 60万円 |
2~3人 | 50万円 | 90万円 | |
4~6人 | 70万円 | 100万円 | |
7人以上 | 100万円 | 120万円 | |
10人以上※ | 120万円 | 130万円 | |
45円以上 | 1人 | 45万円 | 80万円 |
2~3人 | 70万円 | 110万円 | |
4~6人 | 100万円 | 140万円 | |
7人以上 | 150万円 | 160万円 | |
10人以上※ | 180万円 | 180万円 | |
60円以上 | 1人 | 60万円 | 110万円 |
2~3人 | 90万円 | 160万円 | |
4~6人 | 150万円 | 190万円 | |
7人以上 | 230万円 | 230万円 | |
10人以上※ | 300万円 | 300万円 | |
90円以上 | 1人 | 90万円 | 170万円 |
2~3人 | 150万円 | 240万円 | |
4~6人 | 270万円 | 290万円 | |
7人以上 | 450万円 | 450万円 | |
10人以上※ | 600万円 | 600万円 |
例えば、以下の場合の業務改善助成金の助成額をシミュレーションしてみましょう。
- 事業場内最低賃金:890円
- 設備投資にかかった費用:200万円
- 引き上げ後の事業場内最低賃金:935円
- 引き上げた労働者数:5人
- 事業場規模30人未満の事業者とする
この場合、助成上限額は140万円、助成率は9/10です。200万円×9/10=180万円であり、
140万円(上限額)<180万円(設備投資にかかった費用に一定の助成率をかけた金額)
となるため、この場合は140万円が支給されます。
業務改善助成金の対象となる設備投資
業務改善助成金の対象となるのは、「生産性向上に資する設備投資等」にかかる経費です。対象経費は、以下のように2つに分けられています。
経費区分 | 具体例 |
生産性向上に資する設備投資等 | ・POS レジシステム導入による在庫管理の短縮 ・リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮 ・顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化 ・国家資格者による経営コンサルティング(顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し) ・店舗改装による配膳時間の短縮 など |
関連する経費 | ・広告宣伝費 ・汎用事務機器 ・事務室の拡大 ・机・椅子の増設 など |
ただし、「関連する経費」はすべての事業者が対象経費として計上できるわけではなく、特例事業者として認められた場合のみが助成の対象です。
続いて、特例事業者についてみていきましょう。
特例事業者に認定されると助成額と対象経費が拡大される
特例事業者とは、以下の条件に当てはまる事業者を指します。
①賃金要件:事業場内最低賃金が950円未満の事業場
②生産量要件:新型コロナウイルス感染症の影響により、生産量(額)又は売上高等事業活動を示す指標(生産指標)の最近3か月間の平均値が前年、前々年又は3年前同期に比べ、15%以上減少している事業者
③物価高騰等要件:原材料費の高騰など社会的・経済的環境の変化等の外的要因により、利益率(申請前3か月間のうちの任意の1月における売上高総利益率又は売上高営業利益率)が、前年同月に比べ3%ポイント以上低下している事業者
引用:令和5年度業務改善助成金のご案内
特例事業者として認められると、賃金引き上げ労働者数10人以上の助成上限区分を適用可能です。(上記の上限額表の※部分)
また、②生産量要件または③物価高騰等要件に該当する場合は、助成上限額の拡大に加え、対象となる経費についても拡大されます。通常は認められないパソコンやスマートフォンの新規導入や、一部の自動車も助成対象となり、「関連する経費」についても設備投資額を上回らない範囲で対象となります。
特例事業者と対象経費についてまとめると、以下のとおりです。
助成対象経費 | 一般事業者 | 特例事業者(②または③に当てはまる場合のみ) |
生産性向上に資する設備投資等 | ○ | ○ |
生産性向上に資する設備投資等のうち、 ・定員7人以上または車両本体価格200万円以下の乗用自動車や貨物自動車 ・PC、スマホ、タブレット等の端末と周辺機器の新規導入 | × | ○ |
関連する経費 | × | ○ |
業務改善助成金の活用事例
業務改善助成金を利用した事業者は、実際にどのような設備を導入し、生産性を向上させているのでしょうか。
ここでは、業種ごとに、導入事例と設備導入の効果を紹介します。
(参考:業務改善助成金の活用例)
宿泊業・飲食サービス業
宿泊業や飲食サービス業では、調理器具類やPOSレジシステム、食器洗浄機などを導入する事例が多くみられます。
調理器具類では、スチームコンベクションオーブンや食材スライサー、業務用製氷機を導入した結果、仕込みや調理に時間がかかり、製造量も少なかったものが、仕込み・調理時間が短縮され、一度に製造できる量も増え、効率が上がりました。
また、POSレジシステムや自動釣銭機を導入した場合は、入金や売上の集計や釣銭の支払いなどに時間を取られていましたが、生産業務が自動化され時間短縮になるとともに、顧客の回転率も上昇しました。
卸売業・小売業
卸売業・小売業では、POSレジシステムやフォークリフト・特種用途自動車類、調理器具類などが多く導入されています。
フォークリフトを導入した結果、荷物の運搬や積み下ろしに時間がかかっていたものが、一度に大量の重い荷物を運ぶことができ、作業時間の短縮につながりました。
生活関連サービス業・娯楽業
生活関連サービス業・娯楽業では、美容器具・施術器具や、シャンプーユニット、洗濯機・乾燥機などを導入するケースが多いです。
脱毛器やデジタルパーマ・スチーマー類を導入した結果、既存の機械では仕上がりにムラがある上、施術時間が長かったものが、施術時間の短縮に加え高品質なサービスを提供できるようになりました。
医療・福祉
医療・福祉の分野では、福祉車両や歯科用チェアユニット、施術ベッドなどを導入するケースが多いです。
福祉車両を導入した結果、利用者の送迎に時間がかかり、従業員も複数必要だったものが、車椅子に乗ったまま乗降できる福祉車両のおかげで送迎にかかる時間や人員を削減できました。
業務改善助成金の注意点
業務改善助成金を利用する際の注意点は、以下の2点です。
- 交付決定前に設備投資を行わない
- 申請期限前に募集が締め切られる可能性がある
補助金や助成金の多くは、交付決定を受ける前に設備投資をしてしまうと、助成の対象外となります。業務改善助成金は「交付申請書」を提出し、交付決定通知を受け取ってから設備投資するようにしてください。
また、業務改善助成金は予算の範囲内で行われているため、多数の応募があった場合は申請期限より早く募集が打ち切られる可能性があります。
なお、令和5(2023)年度の業務改善助成金のスケジュールは以下のとおりです。
申請期限 | 令和6(2024)年1月31日 |
事業完了期限 | 令和6(2024)年2月28日 |
事業完了期限とは、「導入機器等の納品日」「導入機器等の支払完了日」「賃金引き上げ日」のいずれかの最も遅い日です。すなわち、令和5(2023)年度の業務改善助成金では令和6(2024)年2月28日までに納品・支払完了・賃金引き上げのすべてが完了していなければなりません。
令和6年度に業務改善助成金を利用しようとお考えの方も、申請と事業の実施は、期間に余裕を持って進めましょう。
業務改善助成金の手続きの流れ
業務改善助成金を受け取るためには、以下の流れに沿って手続きを進めましょう。
- 交付申請書の提出
- 審査・交付決定
- 事業の実施
- 事業実績報告書の提出
- 助成金の受け取り
業務改善助成金の申請は、郵送と電子申請システム(jGrants)のどちらかで行います。電子申請システムにはGビズIDが必要となるため、申請の前に早めに入手しておきましょう。
申請する際は、「交付申請書」と「事業実施計画書」を作成し、管轄の労働局に提出します。申請から約1か月後に、交付(不交付)決定通知が届くため、交付が決定された場合は計画に基づき設備投資と賃金引き上げを行います。
事業が完了したら、事業完了日から起算して1月を経過する日、または翌年度4月10日のいずれか早い日までに「事業実績報告書」を提出しましょう。原則20日以内に審査が行われ、助成金が振り込まれます。
申請マニュアルや各種様式は、業務改善助成金|厚生労働省のページをご確認ください。
【令和6年度】業務改善助成金はどうなる?
業務改善助成金は、令和5年8月31日に対象事業者が拡大されるなどの拡充がありました。
厚生労働省は全国加重平均で1,004円となる最低賃金の引き上げに向けた環境整備を図っているため、令和6年度も拡充後の内容が継続される見込みです。
業務改善助成金のことなら、中小企業経営支援事務所までご相談ください
業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資と、従業員の賃金引き上げを行った中小企業を支援する制度です。令和6年度も継続される見込みであるため、活用をお考えの経営者様は、早めに準備しておきましょう。
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